はじめて死を恐れたとき [思い出]
母方の祖父が逝ったは私が2歳の時、何も憶えていない。
父方の祖父は4歳の時、焼き場で最後の顔を見たことだけは憶えている。
だけど、悲しみは思い出せない。「死」が何かわかっていなかったからだと思う。
その人に会ったのは一度だけ、父方の祖母家で。
祖母の実家の親戚の人と後にきいた気がする。
確か私は5歳か6歳かでどんな会話を交わしたのかまったく憶えていない。
しばらくして、真っ白なワンピースが届いた。
一度だけ会った私の見た目だけで作られたその服は
私の体には合わず、母がスカートに直してかろうじて着ることができた。
私はワンピースのままで着たかったから、とても残念だった。
それからしばらくして、祖母の家で一人留守番をしていた時に、黒電話がなった。
祖母がいないことを知った電話の主は「ワンピースのお姉さん」のお母さんで
「○○が死んだってつたえてくれる?」とふるえる声で言った。
ワンピースのお姉さんは難しい病気で、死が迫っていることはわかっていたらしい。
本人が知っていたかどうかは私は知らない。
病弱ながら趣味の洋裁が大好きで、いつも何かを作っていたそうだ。
「死んだ」ということばに私はただただショックを受けた。
悲しいわけでも、辛いわけでもなかった。
ただ「死んだ」ということばの音がずっと私の中で反復していた。
それが私がはじめて「死」を恐れた瞬間だったのかもしれない。
「死」が何かはきっと今もわかっていない。
ワンピースのお姉さんに「ありがとう」といえないままだったことを
なぜか今日ふと思い出した。
あのワンピースだった真っ白なスカートはまだ実家に残っているだろうか。
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